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アパートの強制退去の費用は誰が負担する?強制退去になる理由も解説
アパート経営では入居者を集めて空室を埋めることは重要です。ただしそれと同じくらい、あるいはそれ以上にしっかりした対策が必要となる問題があります。それが入居者トラブルです。
入居者トラブルは必ず起こるとは限りませんが、起こったときには他の入居者にまで迷惑をかけるケースもあり、状況によっては強制退去を求める必要が生じる場合もあります。
では貸し主から入居者に強制退去を求めた場合、退去費用はどちらが負担するべきなのでしょうか。本記事ではアパートの退去費用の負担について、強制退去になる理由と併せて解説します。
目次
アパートの強制退去費用は入居者に請求できる
入居者をアパートから強制退去させる際にかかった費用は、原則として入居者負担です。民事執行法の第四十二条でも「強制執行の費用で必要なものは、債務者の負担とする」と定められています。ただし強制退去の手続きを弁護士に依頼した場合の弁護士費用は、債務者が負担すべき費用の中に含まれていません。
また原則入居者負担となっている強制退去費用ですが、経済的に苦しい入居者であれば、引越し費用を貸し主が負担せざるを得なくなる場合もあります。さらに破産した入居者には支払い能力がないため、費用の負担を請求できません。
強制退去費用の金額が大きいと、支払いから逃れるために破産を選択する入居者もいるため注意が必要です。
※引用:e-Gov法令検索.「民事執行法(昭和五十四年法律第四号)」,(参照 2022-03-11)
賃貸アパート強制退去までの流れ
詳細は後で解説しますが、賃貸アパートで強制退去が認められる理由は複数あります。ここでは数ある理由の中でも圧倒的に多い「家賃滞納」を例に挙げ、強制退去を実行するまでの流れをステップごとに解説します。
1.電話や訪問で交渉する
家賃の滞納が確認されたら、最初に行うことは入居者本人と接触して事情を聞くことです。行ける範囲に入居者がいれば訪問して直接会い、訪問が難しい場合には入居者と電話で話します。
この段階で話す内容は支払状況などの事実確認のみです。まだ話し合いの段階にあるため、勤務先や連帯保証人、家族への連絡は避け、あくまでも本人のみとの交渉にとどめましょう。
事情を聞いた結果、手違いによる滞納だったり交渉によって入居者に滞納分を支払ってもらえることになったりした場合は、話し合いだけで解決できるため貸し主の負担は少なく済みます。
ちなみにこの時点でかかる費用は電話代や訪問によりかかった交通費の実費のみです。
2.督促状・請求書を送付(普通郵便)
入居者本人と直接連絡が取れなかったときは、入居者に請求書や督促状を送り支払いを促します。連絡が取れなくなるケースとはいつ訪問しても不在だったり、電話をかけても通じなかったりする場合です。
また、この段階で送る請求書や督促状はあまり強い口調の文面にしないようにしましょう。電話で事情を聞く場合と同じように「家賃の支払いを行った確認が取れないため事情を知りたい」といったスタンスの書面にし、普通郵便で送付します。
請求書などを受けて入居者から「忘れていた」などの事情を伝える連絡や「翌月なら支払える」といった報告などの反応があれば解決への一歩です。
この段階で貸し主が負担する費用は、普通郵便の切手代(84円~)のみとなります。
3.内容証明郵便を送付
請求書などを普通郵便で送っても入居者の反応がなかった場合、今度は内容証明郵便か配達証明付きで督促状を送付します。内容証明郵便も配達証明付きも配達したことを法的に証明できる郵送手段のため、後で裁判となったときに送った事実の証拠にすることが可能です。
送付する書面には一般的に下記の4つの内容を含めます。
・家賃の滞納があった事実
・支払期日
・期日内に支払いが確認できなかった場合には契約解除となること
・期日内に支払いが確認できなかった場合には連絡保証人に連絡すること
ただし、必ずしも上記すべてを督促状に含める必要はなく契約解除の通知を別に送付する方法もあります。
この段階でかかる費用は、郵便料金(84円~)、書留料(435円)、内容証明料(440円)または配達証明料(320円)です。内容証明の作成と発送を弁護士に依頼する場合には別途5万円ほどが必要となります。
4.連帯保証人に連絡する
内容証明郵便などで督促状を送っても期日内に支払いがなかった場合、次に行うのは連帯保証人への連絡です。電話などで家賃が滞納されていることなどの現状を伝え、その後督促状を送付します。
この段階でかかる費用は電話代の実費と督促状を送る郵送料です。
5.賃貸契約解除
この段階にきても問題が解決していない場合は、賃貸契約の契約解除を行います。貸し主側からの賃貸契約解除は家賃滞納から3カ月が経過していれば民法でも認められている行為です。賃貸契約解除に必要な本人への事前勧告も3番目のステップにある督促状の送付で済んでいます。
この手続きで貸し主が負担する費用は、契約解除通知の送付にかかる内容証明または配達証明付きの郵送料です。
6.明け渡し請求訴訟・未払い家賃(延滞金)請求の提訴
賃貸契約解除通知を送付しても入居者が退去しない場合は、入居者の立ち退きを求める明け渡し請求訴訟の提起を未払家賃の支払請求と併せて行います。申立先は請求額を問わず簡易裁判所と地方裁判所のどちらでも可能です。
訴訟の際には下記の書類を用意します。
・訴状
・不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
・固定資産評価額証明書
・代表者事項証明書(法人の場合)
・予納郵便切手
・収入印紙
さらに証拠書類として下記の持参も必要です。
・建物賃貸借契約書
・内容証明郵便(賃貸借契約解除通知を送ったもの)
・配達証明書
訴訟では裁判前に法的強制力のある調停を行います。調停は調停人が間に入り貸し主と入居者で和解に向けた話し合いを行う場です。裁判は調停で和解が成立しなかった場合に行います。
訴訟にかかる費用は収入印紙代(訴額に応じた手数料分)、予納金の基本額(65,000円)、予納郵便切手(約6,000円)です。
7.強制執行申立て
調停で和解が成立したり裁判で貸し主が勝訴したりしているにもかかわらず、入居者が立ち退かなかった場合には強制執行の申立てを行います。
強制執行は和解の成立や裁判の勝訴があって初めて実行できるものです。
申立ての際には予納金として約3~4万円の用意が必要となります。
8.強制退去の執行
強制退去は裁判所の職員である執行官が入居者の部屋を直接訪問し、明け渡しの催告を行った上で断行します。ただし催告と断行の日は必ずしも同日とは限りません。
また、入居者が執行官の訪問に対応しない場合でも、解錠技術者が同行するため入室して強制退去を執行できます。その際に行うのは入居者本人や同居家族などを退去させ、すべての荷物を運び出し空室にすることです。
強制退去には解錠技術者費用(約2万円~/回)、荷物の運搬費用(ワンルームで約10万円~)、廃棄処分費用(約2~4万円)が必要ですが、予納金で清算し余ったら返金されます。
強制退去で搬出された荷物はその後どうなる?
強制退去させられるまで部屋を退去しない入居者のケースでは、ほとんどの場合、断行日の時点で部屋に荷物が残されていますが、空き室にするためにすべての荷物は部屋から搬出されます。
搬出した荷物の保管先は執行官が指定する倉庫です。定められた保管期間を過ぎると通常は親族などに引き渡されますが、引き渡し先がなかった場合は売却され売却で得たお金は強制退去にかかった費用に充てられます。
強制退去をさせられる条件
入居者にも居住する権利はあります。そのためアパートの強制退去は貸し主が希望すればどのような状況でも行えるわけではありません。ここでは強制退去が認められる条件を紹介します。
家賃の滞納が続いている
家賃の支払いを約束通りに納めないことは契約違反ですが、家賃の支払いがなければすぐに強制退去をさせられるわけではありません。強制退去をさせるためには通常であれば半年以上、短い場合には3カ月以上で継続的に入居者が家賃を滞納している必要があります。
入居者に支払いの意志がない
既に家賃を滞納していて、今後も家賃を支払う意思が入居者にないと確認できていることも強制退去の条件です。
家賃を支払う意思があるかどうかは支払通知などの送付時や話し合いをしたときの入居者の対応の仕方で確認できます。
ただし、入居者自身に支払いの意思がなくても、連帯保証人により家賃の支払いがあった場合には家賃を滞納したことにはなりません。
貸し主と入居者の信頼関係が破綻している
アパートの貸借は、貸し主と借り主の間に契約を遵守する信頼関係があってこそ成り立つものです。
契約時に約束したルールを守らない入居者は信頼関係が失われたとして強制退去の対象となる場合もあります。
家賃滞納の他、例えばペット不可物件で隠れて動物を飼育していたり、契約の際に申し出ていない人を住まわせていたりするのも信頼関係の破綻に該当する行為です。
強制退去が認められないケース
上記で挙げた3つのすべての条件に該当していても強制退去をさせられないケースもあります。強制退去をさせられない2つのケースを紹介します。
家賃の滞納が一時的
家賃の滞納が継続的なものではなく、体調不良や失業などやむを得ない理由による一時的な滞納の場合には、強制退去をさせることは難しくなります。本人に支払いの意思はあるものの、経済的に厳しく支払えない状況にあるだけだからです。
強制退去の条件である「入居者に支払いの意志がない」や「貸し主と入居者の信頼関係が破綻している」に該当しないと判断されます。
貸し主の権利濫用と判断された
強制退去は法律に従って執行しなければならず、貸し主が勝手に入居者の部屋へ入ったり、入居者の室内にあったものを売ったりすることは禁じられています。
このような行為は貸し主の権利を利用した強引な手段であり、強制退去が認められないばかりか罪に問われる可能性もあるため避けなければなりません。
弁護士に依頼する際にかかる費用の目安
強制退去は法律を守って正しい方法で行わなければならず、自分で行うことに不安がある場合には弁護士に依頼するのも方法です。ここでは弁護士に依頼した場合にかかる費用の目安を紹介します。
相談料
相談料は具体的な相談内容を弁護士に伝えて専門的な立場からアドバイスなどをもらう際にかかる費用です。初回のみ無料にしているところもありますが、有料の場合、30分~1時間で5,000円程度が目安となります。
※出典元:債権回収弁護士ナビ.「強制退去の費用の目安と強制退去の費用を安く抑える方法」. https://saiken-pro.com/columns/26/ ,(参照 2022-03-11)
着手金
着手金は弁護士に正式な依頼をすると発生する費用です。
1カ月あたりの賃料が20万円以下の物件について依頼する場合は10~40万円程度が相場です。
そのため複数の事務所で無料相談を受け、金額も確認した上で依頼するとよいでしょう。
※出典元:債権回収弁護士ナビ.「強制退去の費用の目安と強制退去の費用を安く抑える方法」(参照 2022-03-11)
報酬金
報酬金は成功報酬とも呼ばれ、滞納されていた家賃が回収できたときにだけ弁護士へ支払うお金です。
金額は回収した金額の10%程度で設定しているところが多く、中には相談料も着手金も無料の完全成功報酬型をとっている事務所もあります。
※出典元:債権回収弁護士ナビ.「強制退去の費用の目安と強制退去の費用を安く抑える方法」(参照 2022-03-11)
賃貸アパート等を追い出された人たちの事例
ここでは賃貸アパートなどの貸し主が入居者に対して強制退去を求め、入居者が退去することになった事例をそのいきさつや成り行きなどとともに紹介します。
家賃滞納
1つ目に紹介するのは家賃の滞納期間が日に日に長期化するようになったため、話し合いの末に退去となった事例です。
この入居者の滞納は当初2~3日程度でしたが、貸し主が強い催促を行わなかったためついには3カ月分の滞納となってしまいました。
そこで貸し主は司法書士に相談し、専門家を通して入居者と交渉を開始します。
そして交渉の結果、早々に退去することと滞納分の家賃を支払う約束を合意書で取り交わし、最終的に入居者は30日後に退去。
その後半年間で滞納していた家賃の支払いを終えました。
家賃の遅れを「数日なら」と許していると、いつのまにか長期の滞納となるケースは少なくありません。
滞納金額が大きくなると解決が難しくなるため、家賃の支払いが滞ったら早くに行動を起こすことが大切です。
※出典:けやきの街法務事務所.「賃貸トラブル解決事例紹介」(参照 2022-03-29)
契約違反(ペット)
2つ目は家賃滞納により強制退去の手続きを進めていた入居者が、さらに契約で禁止しているペットの飼育も行っていたことが判明、貸し主が即刻退去を求めた事例です。
もともと貸し主は、強制執行の手続きで強制退去は2カ月ほど先になることを承知していました。しかし、同入居者が現在も猫を飼育し続けていることを知り室内に傷や臭いが付くことを危惧して即刻退去を求めました。
家賃滞納が理由の強制退去と同様、ペットを飼っていたという契約違反を理由とした強制退去でも、法律に従った手続きが必要になります。
※出典:お悩み大家さん.「ペット不可の物件でペットを飼育しているのが発覚した場合の対応について」(参照 2022-03-29)
騒音
3つ目は友人たちとの飲み会による連日の騒ぎで、近隣から苦情が入り強制退去となった入居者の事例です。入居者当人は騒いでいた自覚がなく貸し主から忠告を受けても無視し続けていました。
そのため貸し主は騒音測定器を入手し、通常の人が我慢できる限度を超えた騒音であることを明らかにした上で裁判所に入居者の退去を求める訴えを起こします。結果として貸し主の主張が認められ、入居者は追い出されることになりました。
この事例は立証を持って訴訟が行われたケースですが、そもそも騒音を理由に退去を求める場合、入居者と結んだ賃貸借契約書の内容がカギとなります。「賃貸借契約書の契約解除に関する規定」に騒音に関する約束事が記載されていると、契約違反をしたとして強制退去をさせることが可能となります。
※出典:不動産投資ユニバーシティ.「アパートを強制退去させられた5人の理由!退去費用は誰がだす?」(参照 2022-03-29)
アパート経営をしていると、入居者を強制退去させたい状況が訪れる場合もあるでしょう。
ただし強制退去の執行は一定の条件を満たした上で、いくつかの手順を踏み正しく手続きを行うことが必要です。
また、強制退去にかかる費用は原則入居者が負担しますが、強制執行を行うまでの過程で貸し主が負担しなければならない費用もあります。さらに入居者が破綻したらそもそも請求できません。
いざ強制退去をさせる状況になったときに慌てないためにも、この記事で紹介した実際の手続きや費用の目安を事前に理解しておくとよいでしょう。
加えてトラブルの発生を防ぐために、日頃から入居者たちとの信頼関係を築いておくことも大切です。